平日の14時、不妊治療クリニックの待合室。
私はPCを開き、Slackで業務連絡を返していました。
ふと周りを見渡すと、スマホをただ眺めている人や、退屈そうに寝ている人がたくさんいます。
専業主婦の方なのか、仕事を休んでいるのかは分かりません。
X(Twitter)では「妊活に専念するために仕事を辞めました!」という投稿をよく見かけますが、私はその待合室の光景を見て、逆にこう思ってしまいました。
「仕事を辞めて、この長い待ち時間の間、ずっと『妊娠できるかな…』と不安に向き合い続けるの、逆にメンタルきつくないか?」と。
私にとって、仕事は「妊活の不安から目を逸らすための精神安定剤」でもあったのです。
もちろん、出社必須の会社員時代だったら、そんな余裕はなかったと思います。
「朝イチで通院しよう」と思っても9時半の朝の定例会議と被って絶望したり、「午後休をとろう」と思っても上司の顔色が気になったり…。
その時、クリニックの外でスーツ姿の女性が、電話口で謝り続けているのが聞こえました。
「すみません、戻りが1時間遅れそうです…はい、申し訳ありません…」
その姿を見た瞬間、私は確信しました。
「あ、これは努力でどうこうなる問題じゃない。インフラ(環境)の差で勝負が決まるゲームだ」と。
妊活と出社は、物理的に「バッティング」する
そもそも論として、「会社員(出社組)」のスケジュールと「不妊治療」のスケジュールは、うまく混ざり合いません。
それは、あなたの要領が悪いのでも、努力が足りないのでもありません。物理的に無理な構造なのです。
出社組が直面する「3つの無理ゲー」要素
- 時間の予測が不可能
- 卵胞の育ち具合で「明後日来てください」と急に言われる。排卵日はあらかじめ知ることができません。
- 朝の時間が使えない
- 多くのクリニックは9:00〜10:00開始。会社の始業や朝会(定例)と完全に被ります。
- 待ち時間が「死に時間」になる
- いつ呼ばれるか分からない2〜3時間。仕事に戻ることもできず、ただ有給と精神を摩耗させるだけのロスタイムになります。採血がある場合は、診察で呼ばれるのは最低でも1時間後。そこから待機が始まります。
この状況で「仕事と両立」なんて、装備なしでラスボスに挑むようなものです。
リモートワークは「贅沢」ではない。「必須インフラ」だ
私は現在、フルリモートの環境で働いています。
この環境だと、先ほどの「無理ゲー」要素はどうなるでしょうか。
- 急な通院
- → カレンダーを「作業ブロック」にして中抜け。チャットさえ返せば業務は止まりません。
- 朝の定例会議
- → 耳だけ参加しながら移動したり、時間をずらして稼働することでカバー可能。
- 3時間の待ち時間
- → 「集中できる作業タイム」に変わります。PCさえあれば、待合室はオフィスです。Wi-Fi完備のクリニックもあります。
多くの人は「リモートワーク=楽をするための福利厚生(贅沢)」だと思っています。
でも、妊活当事者からすれば違います。
これは葉酸サプリや排卵検査薬と同じ。
治療という日常を回し続けるための「必須インフラ」です。
インフラが整っていない荒れ地で、気合だけで戦うのは勇敢ではなく無謀です。
もしあなたが今「辛い」と感じているなら、それはあなたが弱いからではなく、インフラが未整備だからです。
ただし「なんちゃってリモート」には注意が必要
ここで一つ、重要な注意点があります。
私が定義する「妊活インフラ」とは、ただ「家で仕事ができる」という意味ではありません。
監視カメラのように常時Zoom接続を求められるリモートワークや、9時-18時固定の勤務体系では、結局クリニックには行けないからです。
私が考える「真の妊活インフラ(スペック)」は、以下の3つが揃っていることです。
- フルリモート(場所の自由)
- 移動時間ゼロで、体力消耗を防ぐ。出社日が固定されている「週2リモート」などは、排卵日がずれた瞬間に破綻します。
- スーパーフレックス(時間の自由)
- 「コアタイム(必ず勤務すべき時間)」がないのが最強。11時に中抜けして、その分を夜や早朝に回せる環境です。
- 成果主義(評価の自由)
- 「PCの前に何時間座っていたか」ではなく「何をアウトプットしたか」で評価されること。これがあれば、中抜けへの罪悪感は消えます。
この3つが揃って初めて、「仕事をしながら、誰にも頭を下げずに妊活をする」というパズルが完成します。
転職サイトを見る時は、ただ「リモート可」の文字に飛びつかず、「フレックスで働けるか?」「中抜けは文化として許容されているか?」までチェックする必要があります。
「辞める」以外の選択肢(逃げ道)を持っておく
「そんな好条件の会社、私には無理だよ」
「今の会社を辞めるなんて怖い」
そう思うかもしれません。もちろん、明日すぐに会社を辞める必要はありません。
ただ、「今の場所で戦うしかない」と思い詰めるのが、一番メンタルに悪いのです。
- 自分の今のスキルで、在宅ワークができる職種はあるか?
- 「フルリモート・フレックス」の求人は、世の中にどれくらいあるか?
これを「知っているだけ」でも、精神的な命綱になります。
「いざとなったら、環境を変えればいい」と思えれば、今の辛い通院も少しだけ客観的に見られるようになります。
妊活は長期戦です。
頑張る方向を「会社への謝罪」ではなく、「自分のための環境構築」に向けてみてください。
私だってまだ妊活という戦いの最中です。でも妊娠できないことへのストレスはあるものの、余計なストレスは本当に感じていないんです。
私がどうやって今の環境を手に入れたか、具体的なルートについては、また別の記事(働き方カテゴリ)で詳しく整理します。

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